社会活動家の「失踪」、東南アジアで相次ぐ 当局関与疑う家族の訴え

Mainichi: 18 December 2022

事件から10年となるのに合わせて開かれたイベントで、ソムバットさんの写真やイラストを背に解決を訴えるウン・シュイメンさん=バンコクで2022年12月15日午後3時1分、高木香奈撮影

ラオスの首都ビエンチャンで10年前に失踪した同国の社会活動家、ソムバット・ソムポーンさん(70)について、当局が事件に関与したとみる家族らが真相究明を求め続けている。ソムバットさんは「アジアのノーベル賞」と言われるマグサイサイ賞の受賞者で、国際的にも著名。米国務省も失踪から10年となった15日、ラオス政府に対して問題解決に向けた行動を取るよう求めたが、ラオス側は応じていない。

「この10年間、何度もラオス政府に調査を訴えたが『知らない』と言われるばかりだった」。ソムバットさんの妻ウン・シュイメンさんは13日、タイの首都バンコクで開いた記者会見でこう訴えた。

ソムバットさんはラオスの農業普及活動や開発教育に長く携わり2005年にマグサイサイ賞を受賞。12年12月15日、帰宅途中に失踪した。家族が入手した防犯カメラ映像には、ソムバットさんの乗った車が警官に止められた後、何者かに別の車で連れ去られる様子が映っていた。

人民革命党による一党体制のラオスの政権は体制批判につながる言動に神経をとがらせる。ソムバットさんは失踪の2カ月前に開かれた国際会議の運営に携わった。当時は政府による土地収用への批判が高まり会議でも話題になった。このため当局がソムバットさんを敵視したとの見方がある。だが当局は関与を否定し、17年に家族に「調査を続けている」と説明して以降、情報を提供していない。解決の糸口も見つからないが、ウンさんは「夫がいかに自然を愛し、国や社会のために生きてきたかを書き、話し続けていきたい」と前を向く。

ウンさんの会見に同席したタイの人権活動家、アンカナ・ニーラパイジットさんによると、人権活動家らが当局に拉致されたとみられる事件はラオスと周辺国で絶えず、こうした事案は「強制失踪」と呼ばれる。弁護士だったアンカナさんの夫も04年3月、バンコクで車で連れ去られた。アンカナさんは「強制失踪は東南アジアで日常的に起きており、社会全体に恐怖を植え付けている」と訴える。

国際社会からも問題解決を求める声が相次ぐ。人権問題に取り組む世界各国の66団体は13日の共同声明でラオス当局の対応を非難し、すべての強制失踪事件を調査するよう求めた。

ソムバットさんは失踪前、環境関連のセミナーで訪日した。主催団体の一つ「メコン・ウォッチ」(東京都)はソムバットさんの失踪の背景を追ったドキュメンタリーの日本語版を15日からホームページ上で公開中だ。木口由香事務局長は「ラオスには今も自由な発言ができない人がいることを知ってほしい」と話す。【バンコク高木香奈】

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